透湿・遮熱する家の考え方

1.高気密・高断熱の家の限界

透湿・遮熱する 夏涼冬温の家

現在、次世代の省エネルギー対策のあるべき姿として高気密、高断熱住宅が推奨されております。しかしながら私が10数年以上前になりますが、当時のカナダ政府が推奨する最先端と言われたR2000仕様の2×6工法で高気密高断熱の住宅を作り、その住宅で生活した者の実感として、果たしてこれが本当に日本の自分の住む地域に合った住宅かと疑問をもった次第です。


冬は期待通りの暖かさで快適だったのですが、夏を迎えるとそれはある種の地獄となりました。 夏の午前中は快適なのですが、午後になると日射により屋根や外壁が温まり、それが夜になると輻射熱を発して、朝まで灼熱地獄が続きます。いくら冷房をしても壁や屋根が輻射熱をだすと、冷房をしてどれだけ室温が低くなっても体感温度は下がらず不快感が続き、逆に夜間には家の外の方が涼しいという皮肉な結果となりました。唯一の効用は毎晩汗をかいて寝ることでサウナに行かなくても減量とデトックスに役立っていることかもしれません。

北海道のように北米や北欧に近い気候では高気密、高断熱の住宅も有効でしょうが、表日本のように高温多湿のエリアでは夏をどう快適に暮らせるかが問題であり、その面では何かが足りないと実感しています。現状の日本での電力使用のピークは真夏の冷房負荷が最大であり、その増加する電力のピークのために新しい発電所を建設しなければならず、地球温暖化の原因とされるCO2の排出量も削減どころか増加しているのが現実です。
果たして従来の高気密、高断熱住宅を促進することが却ってエネルギーの消費増加につながるのではないかと危惧する次第です。


このような状況で、従来の考えでは何か足りない、もっと対策が必要と考え、長期にわたり国内外を調べて考えた結果、現状では下記のような対策を考慮した家作りが必要と痛感し、提案させて頂きました。

2.遮熱の必要性

遮熱を考えるにはまず熱の伝わり方を考えなくてはなりません。
熱の移動には 対流伝導輻射(放射)と3つあると言われています。


≫ 対 流

対流とは暖められた空気や水が上昇することにより循環して発生する熱移動です。
お湯を沸かすとき水の中の熱移動がこれにあたります。

≫ 伝 導

伝導とは物体を伝わって行く熱移動です。フライパンの取っ手に伝わる熱を思い浮べてれば理解できると思います。

≫ 輻 射

太陽の赤外線や熱線、電磁波が物体に当たるとその物体はそのエネルギーを得て輻射熱を持ちます。そしてその物体自身から電磁波のような赤外線を発するようになり輻射熱を出します。それは空気を解さなくとも電磁波のような伝わり方をします。輻射熱は冬には心地よい暖房として使われ床暖房などに使われます。石焼芋とか石焼ビビンバ、鋳鉄の薪ストーブ、岩盤浴、等色々使われております。


従来の住宅の断熱の概念ではほとんど対流と伝導しか考えてきませんでした。しかしながら、住宅の熱移動は平均、伝導による移動が40%あれば輻射も同じ40%以上あると言われてきました。ペンシルバニア州立大学の報告では住空間に及ぶ熱の伝達は輻射が家全体の熱移動の75%に及ぶとされております。


ですからどんなに熱伝導率の低い、厚い断熱材を使ってもそれは対流や伝導の熱の移動にしか効果が無く、家全体を考えるともっとも大事な輻射熱をコントロールしなくては全く片手落ちとなります。特に夏の太陽エネルギーの赤外線や熱線をどう防ぐかが重要な課題です。


現状の遮熱を無視した外断熱や内断熱の優位性の議論は全く本質をはずした議論であり、今こそ日本の断熱技術の中に大きな要素である輻射熱の遮熱をもっと真剣に考える時期に来ていると思います。

3.熱容量の重要性

断熱材と言えば従来は熱伝導率と厚みだけで考えられてきました。
最近はヨーロッパではその断熱材の持つ熱容量が重要視されるようになってきております。

断熱材は伝導率の良し悪しに関わらず、いずれにしても時間の経過とともに熱は伝わります。つまり断熱とは 「 熱の移動を遅らせる役割 」 をしてきたと言えます。

このような中で断熱材がどれだけ熱を蓄えられる能力があるのかという熱容量に関しては、全く議論されてきませんでした。熱容量を、水瓶に例えれば水をいかに蓄えられるかの大きさと同じように、どれだけ熱を蓄えられるかが熱容量です。熱容量の大きな断熱材であれば、それだけ熱の移動を遅らせることが可能になり、熱容量は熱伝導率と同等以上に大事な要素です。EUでは熱伝導率と単位体積当たりの熱容量(=容積比熱)のバランス比である温度拡散率(=熱伝導率÷容積比熱)も重要と考え断熱材を選択しています。


◆ 断熱材遮熱性実験
断熱材A : グラスウール32kg/m3 熱伝導率 λ= 0.036W/mK 容積比熱 c・ρ= 27,200J/m3・K
断熱材B : 押出法ポリスチレンフォーム III種b 熱伝導率 λ= 0.028W/mK 容積比熱 c・ρ= 42,000J/m3・K
断熱材C : 木質繊維ボード “ イーストボード ” 熱伝導率 λ= 0.045W/mK 容積比熱 c・ρ= 460,000J/m3・K


  - レフランプ点灯(7:45)後 -
断熱材A、断熱材B は急激な放物線を描きながら温度が上昇して行った
断熱材C はS字を描くよう緩やかに温度が上昇して行った
  - 測定中盤 -
断熱材A、断熱材B は開始より3時間(10:45)を過ぎた辺りで一度温度が収束し、その後室温の上昇に釣られる形でさらにいくらか温度上昇をみせた
断熱材A のピーク温度 : 67.0℃
断熱材B のピーク温度 : 50.5℃
断熱材C は測定開始より9時間程経過(16:45)したところでようやく初めて温度が収束した(もし室温が一定であれば、4~5時間経過したところで温度収束は一度あったかもしれない)
断熱材C のピーク温度 : 35.4℃
  - レフランプ消灯(16:45)後 -
断熱材A、断熱材B は急激な放物線を描きながら温度が下降して行った
断熱材C はS字を描くよう緩やかに温度が下降して行った

当社のイーストボードの模擬試験でも考察されるように、熱容量(容積比熱)と熱伝導率のバランスの良い断熱材を使用する事によって、真夏の厳しい太陽の日射にも十分に耐える事ができて、日の沈むまでの長い時間の熱移動を抑える事ができます。夏よく起こる屋根や壁の熱ごもりや輻射熱の発生を抑え、快適な夜の住空間を提供できると思います。
イーストボードの熱容量(容積比熱)はグラスウール32kのおよそ17倍になります。
いずれにしろ断熱の考えの中で断熱材の熱容量(容積比熱)をもっと重要に考えるべき時期です。

4.屋根断熱の重要性

従来の日本の住宅では主に天井断熱が行われてきました。
しかし実際の施工現場では、天井の吊り木や照明器具の部分等の処理がむずかしく、現場でのブローイングによる断熱材の吹き込み方法以外はあまり有効な手段が無いのが現状です。また最近の住宅では屋根下をロフトとして使う家や、大きな梁を表しにして見せる為に、表しの勾配天井の家が急速に増えてきております。

しかし、屋根面には勾配がある為に、壁面より大きな太陽の熱を受け、熱を吸収します。夏期の屋根表面の温度は70℃以上にもなります。このような厳しい条件の中で、特に勾配天井の様な家では屋根の断熱対策が非常に大事になります。

冬の断熱、結露対策はもちろん、夏いかに内部への熱の侵入を防げるかが、内部の快適な生活環境を作る為の大事な条件になります。それらを複合的に考え、当社では 夏涼冬温の屋根システム を提案しております。

◎ 夏涼冬温の屋根システム

1.断熱性

どのレベルの生活を目指すかによって断熱のレベルは違いますが、このシステムでは外張り断熱+充填断熱にする事により、気密を高めそれぞれの欠点を補っており、充分な断熱性を確保できます。

木質繊維断熱材 ウッドファイバー

2.夏の遮熱
A.

屋根材(瓦、金属屋根 等)の下に充分な通気層をもうけ、常に棟より換気させ、屋根下を通気させることで、温度の上昇を抑える事ができます。またこれにより、瓦等から侵入した水をすみやかに流し防水にも重要な役目を果たします。

B.

遮熱透湿シートを使用し、太陽などからの輻射熱を低減させながらも、屋根内部からの湿気や水分を外部に排出します。

C.

熱伝導率が低く且つ高い容積比熱と高い透湿性も併せ持った木質繊維板および木繊維を原料とした充填断熱材をそれぞれ外張りと柱間の充填に使用する為、熱の内部への侵入を10~12時間遅らせ、室内空間の温度を外部の温度より低く保つことができます。

外部からの熱が到達する10~12時間後の夜間では、すでに外気は十分に下がっているため、屋根の下の通気層や内部の換気により、断熱材の内部より放熱がはじまり、内部の空間には大きな影響を与えません。また夜間には、冷えた外部空気を換気によって室内に積極的に取り込めば、冷たい空気を蓄冷熱する事ができます。つまり1日の大きな外部温度の変化の振幅を、内部空間ではわずかな温度の振幅の変化に押さえ、快適な居住空間を提供します。


3.透湿材料の使用

現状の住宅では通常、透湿性の極めて低い合板を野地として使用し、その上に透湿性のほとんど無いアスファルトルーフィングを使用し、水分の移動を止めてしまっています。
その為、冬季においては結露が発生しやすく、また夏期の日中には合板の温度は最大70℃以上にも上昇し、内部から湿度により、蒸れや腐れが発生し、著しく耐久性を落としております。

実際10年以上経過した屋根の葺き替えなどでルーフィングをはがすと、合板はボロボロの悲惨な状態で、張り替えざるを得ないケースが数多くあります。これではとても100年以上の使用に耐える住宅の屋根とは言えません。

当屋根システムでは透湿材料を使用し、外部に通気層をもうけ、内部からの湿気を常に排出し、外部からの侵入する水を素早く逃がし、屋根をいつでも乾燥できる状態にして、屋根全体の耐久性を高め、長寿命化させる事により、真の100年住宅を目指しております。

5.体感温度

人間が感じる、暑い、寒い、涼しい、と感じる感覚は、単に室内の室温だけで決まるものではありません。
その部屋を囲む周壁(天井、壁、床)の温度によって大きく変わります。

① 周壁温度
涼房温房の考えを提唱された武蔵工業大学の宿谷昌則教授の研究によれば、人間が快適だと感じる時は人間の体から発する代謝熱量が最低になるそうです。次のグラフを見てください。

ここで宿谷教授の著書「エクセルギーと環境の理論」より、69ページの 図2.3.2 を引用させていただきたく思います。


【図表出典書籍】
著者:宿谷 昌則
出版社: 北斗出版
(2004年 8月)

この斜めに引かれている太線は、体内における代謝熱量と、体の表面からの放熱量がちょうど釣り合っている場合の、周壁と室内の温度の組み合わせを示しています。
この太線の状態が人間にとって心地よく感じられる状態で、太線より右上では暑く感じ、左下では寒く感じられるそうです。特に太線の中でも、周壁温度が25℃、室内温度が18℃の場合がもっとも人間の発熱する代謝熱量が小さく、居心地が良い環境であるようです(上記著書参照)。
例えば窓や壁の周壁の温度が15℃とすると 『 代謝熱量=放熱量 』 のそれなり心地よい環境にする為には、室内の温度は28℃くらいが必要になります。つまり周壁温度の15℃に比べて室温を10℃近くも上げなくてはてはなりません。これはかなりの空調エネルギーが必要となります。

夏の場合、政府がクールビズで室温28℃と設定しても仮にガラス窓や壁が40℃あれば体感温度は、発汗してとても暑く感じられ、冷房をして室温を大幅に下げなくてはとても苦しい状況になります。

つまり冷暖房では、室内の空気を加熱する「対流熱」より、周壁を暖める「放射熱」を使う方が効率良く、体にも心地よく感じられるはずです。

居心地の良い住空間をつくる為には、エアコンのような対流熱を使った室温のコントロールに頼るのでなく、室内の周壁(床、壁、天井)の放射熱を使ったほうが人体にはるかにやさしと言えます。それには周壁の温度の安定が大事であり、断熱や遮熱技術を使い、なるべく化石燃料を使わないで周壁の温度が制御できれば、省エネルギーにつながります。


②湿度と気流

人間の感じる体感温度としてもうひとつ大事な要素として、湿度と気流があります。例えば気温の高い夏でも、湿度が低ければあまり暑さを感じません。

また風が吹くと体表の熱を奪う為、体感温度が低く感じられます。一般的には風速が1m/S増すごとに、体感温度は1℃下がると言われております。


体感温度の計算式   ミスナールの体感温度
体感温度 = T-1/2.3×(T-10)×(0.8-H/100)
T=気温   H=相対湿度

この式により、人間は気温が10℃以上の場合は湿度が上がれば上がるほど暑く感じ、10℃以下の場合は湿度が上がれば上がるほど寒く感じる、ということがわかります。


昔から先人は、それを生活の知恵として、化石燃料にあまり頼ること無く、パッシブな方法で地域の風土や気候に合った形で実践してきました。外部の樹木の植栽、風通し、打ち水、窓の外への遮蔽、等いろいろな工夫をして、ローテクな技術を使い自然の力を利用してきました。 資源の限界が見えてきた今日、たしかに快適な生活を送る為には、ハイテクな技術を使い化石燃料を使う事も必要ではありますが、それだけに頼るのではなく、人間も地球に生きる生物として、もっと身近な自然の恵みを活かし、生活してゆかなければ立ち行けない時期に来ているのではないでしょうか?

6.透湿材料

日本の大半は高温多湿のモンスーン地域にあります。梅雨や台風で、雨の進入や内部結露、カビ、腐れ等様々な問題が発生します。住宅のように自然素材の木材等を使う場合はその耐久性が問われます。それを解決できるのは透湿材料を使用してなるべく湿っても乾く状態にできる事が家や素材の長寿命につながると考えます。

家の作り方においても外部に通気層を設け内部の湿気を逃がすとともに台風等の強い圧力のかかった水分の浸入に対しても、その通気層で圧力をかわして外に逃す事がベストだと考えます。絶対外部より水を侵入させないと考える事も大事ですが、長期間の間ではどうしても侵入はありうる前提に立ち、抜いて逃す考えも日本では必要と思います。仮に内部侵入した水分や内部結露した水分も外や内に開放できる透湿材料を使って外部に放出できれば高耐久につながります。

ただし北のエリアで予想される冬の強い蒸気圧の差による水蒸気の移動などに関しては、室内側に透湿抵抗値の高い材料を使用して水分コントロールさせる事も必要と考えます。いずれにしても、地域の気候特性にあった住宅を作るべきであり、それはWUFIと言うソフトを使って家ごとに簡単に計算できます。

魔法瓶のような住宅を作り、内と外の水分移動を止め、内部を24時間換気して温度コントロールし、加湿や除湿を繰り返すハイテクで化石燃料を使うような家作りは、はたしてエネルギーの限界が感じられる中、将来どこまでこのような生活を人類が続けられるか大いに疑問です。もちろんハイテクの家作りも必要ですが、今こそ先人が行ってきたパッシブでローテクな技術を使い、自然と対立すること無く、自然と調和し、その力を利用した 「人と環境にやさしい家作り」が必要です。

室内側の結露
 

7.夏涼冬温の家

高気密、高断熱+遮熱、熱容量、体感温度、透湿

従来の高気密、高断熱に今まで述べてきた要素を加え、さらに使用される建材の製造にかかるエネルギーや廃棄や再利用を考慮して、現時点で考えられるベストの家として、『 夏涼冬温の家 』 を提案させていただきました。

しかしこれはⅢ地域の表日本での気候の前提に立ったものであり、地域ごとの気候や特性、また建築主の予算、どのレベルの生活を目指すかによって変化してゆく事は必要と考えます。画一的な住宅でなく日本の地域の特性に合った家こそ今必要と思います。

今年ドイツのフラウンフォファー研究所を訪ねました。100年にわたり住宅の基礎研究を地道に続けてきたドイツの科学に対する忍耐強さにびっくりした次第です。
あらゆる住宅の素材研究や気象条件や、人間に対する影響と膨大な実験に基づき検証してゆく姿に感動するとともに、日本で考える住宅研究は日本が2次元であればそれは3次元4次元の考え方で途方もない差を感じました。そこで開発されたWUFIのソフトを使えば日本の地域ごとの膨大な気象条件もはいっており、地域毎の家作りが容易になります。当社でも導入し使用しております。

「 夏涼冬温の家 」 はなるべくパッシブな考えに基づき、生物としての人間がいかにエネルギーを使わず快適に暮らせるかを追求した家、暮らし方、と言えます。
ただし今後開発される新しい建材や素材、技術の進歩によって日々、変化、進化してゆくものと思われます。

いずれにしろ、いかに環境に負荷をかけず、心地よく健康に生活できるロハスな家作りを今後も目指してゆくべきだと思います。



author : 永井 嗣展